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さらば、やさしいゆうづる | 有永イネ

このエントリーをはてなブックマークに追加 カテゴリ:コミック感想  »2012年06月10日 更新

さらば、やさしいゆうづる (KCx(ITAN)) 少しの不思議と新しい明日
 『さらば、やさしいゆうづる』

お気に入り度:★★★★
オススメ度:★★★

作者:有永イネ
出版社:講談社
発売日:2012/04/06
【⇒試し読み】

備考:[短編集][4話収録]

装丁:川谷デザイン



『最果てアーケード』全2巻を刊行している有永イネ先生の短編集で、
40~50ページ程度のエピソード4編が収録されています。
各エピソードのタイトルとそのさわりをまとめると、

●ひとつめは木曜になく
  ―幼馴染の2人は、木曜日にだけ一つ目の「それ」が見える
●さらば、いとしいゆうづる
  ―彼と別れた少女が渡されたのは、「本当に欲しいものが入っている箱」だった
●なき顔の君へ
  ―「双子の弟が消えるように」と姉が願い、それが叶えられる
●はたらくおばけ
  ―幽霊となった少年は、「株式会社はたらくおばけ」に雇われる

といったお話が集まっていて、コピーに「少しの不思議」とはつけてみましたが、
謎の生き物が見えたり、幽霊がお仕事する世界観が少ししか不思議でないと言いたい訳ではなく、
日常の中に非日常が飛び込んでくる、藤子・F・不二雄的な「SF(すこし・不思議)」と伝えたいわけで、
どれも日常世界にありえないことがまぎれて、それが話の「起」になっています。

そんなありえないことに巻き込まれる、または巻き込まれている登場人物達は、
"未熟"であるが故に何らかの痛みやわだかまりに囚われています。
そして、それを出来事を介して受け入れつつ、大体いい方向に進んでくれるので、
読後はじんわりと暖かい気持ちになれます。

面白いのは、それらの物語の過程なのですが、
「少しの不思議」が大きく膨らんで大きな事件に発展する、といった転がり方をしません。
「少しの不思議」はあくまできっかけであって、その不思議に身をおきながら、
元々自分の中にあった心への気づきや人との絆が主人公達を一歩進ませる、
そんな心の機微を丁寧に描いた作品になっています。
不思議を取り入れたちょっと現実からはみ出た世界と、そこでもがく
人たちの等身大の葛藤の物語、そのバランスが絶妙です。

と、全部の傾向をまとめてみましたが、
それぞれのエピソードがセンチメンタルなもの、
痛みの大きいもの、コミカルなものとどれも個性があって、
その中でも、管理人のお気に入りは、
木曜日にワラワラと沸いてくる「ひとつめ」のグロすぎて可愛いい気もしてくるインパクトと、
「ヒロイン」の可愛さで「ひとつめは木曜になく」。
伏線好きにも外せない内容となっていおります。


ということで、こちらの作品は2巻分の長編作品を書き終えた
「新鋭」とカテゴライズされる作者の初めての短編集ということにはなりますが、
荒削りとかのワードで予防線を貼る必要はないかなとも思います。
というかイラストは4編すべて好みのレベルというところまで達していて、
「心情(回想)」と「出来事」を行き来するコマの割り方や
漫画的文法が上手すぎると感じるくらいでした。
掲載元がBE・LOVEと同人誌でレーベルがITANということもあり、
女性らしさの出た作品ということはつけ加えておきますが、
「短編集が好み」という方には間違いなくオススメします。



【装丁】

語感の良い『さらば、やさしいゆうづる』を表題作として掲げた表紙。
裏表紙にはおおきく収録作4タイトルを配置しつつ、
表には小さな英語部分に短編集であることを示した、
写りのよさ優先の文字レイアウトが行われています。
表題作のキーアイテムとなる「鶴の折り紙」「箱」「ビーダマ」を特大に配置して
登場人物達と絡ませた、ファンタジーなイラストが採用されていますが、、
水色の背景とゴシック体の文字によって全体的にはスタイリッシュな印象です。

カバー全体としての配色にもこだわっていて、袖、表紙、裏表紙、袖の色は
黄色、水色、黄色、水色とその区切りから生まれるコントラストが目に爽やかな刺激を与えます。
さらにカバー下(本体)は赤色、カバー裏はピンク色になっていて、
浮き上がったカバーからちらりとその部分が見えたときも美しかったりします。
ピンク色の裏表紙には小ネタが仕込まれていTりしますが、
これを確認するのは、一応作品を読んでからでいいかもしれません。


これは作品を読んでからわかる話にはなりますが、
表紙にかぎらず、カバー全体には作品に登場するキャラが1区画2~3人で配置して、
顔を合わせたり腕を組ませたりしていて、そこまでは普通の短編集的アイディアになりますが、
組み合わせたキャラはエピソードをまたがっており
(例えば表紙のキャラは「さらば、やさしいゆうづる」「ひとつめは木曜になく」
からひとりずつ選出されています)、つまり本来関係性のない
キャラ達が表紙で競演を果たしていて、そういう小ネタが短編集を地味に1つに纏め上げている
のかと感心したりしました。


カバーや作品に関するちょっとしたあれこれは作者のブログで
語られています。ネタバレが含まれていますが既読者には面白いことが
書かれているので読後にお読みください。

⇒「さらば、やさしいゆうづる」|穀物日記

なき顔の君へ⇒「なきかおの君へ/なきがおの君へ」というダブルミーニングや、
作品に関するオマケ4コマまど、読み応えがあります。
過去の同人誌の書影から窺える装丁への意識の高さ、
そしてレーベルがITANで、デザイナーさんが少女漫画にめっぽう強いところ。
必然ですね。

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この商品をデザった人達はこんな商品もデザっています    【川谷デザイン】


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純情ドロップ(マーガレットコミックス)
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2012年06月10日 | コミック感想 | コメント 0件 | トラックバック 0件 | TOP

サユリ 全2巻|押切 蓮介

このエントリーをはてなブックマークに追加 カテゴリ:コミック感想  »2011年07月18日 更新

サユリ 2貞子、伽耶子、…(中略)…、 そして小百合。
サユリ 全2巻

お気に入り度:★★★★
オススメ度:★★★

作者:押切 蓮介
出版社:幻冬舎
発売日:2011/5/24 (2巻)
【⇒試し読み】

装丁:Zooham Yoxxx

景色の良い小高い丘の上に、念願のマイホームを手に入れた神木家。築40年と古めかしさはあったが、一家の大黒柱である昭雄はそれでも満足していた。長女の径子、長男の則雄、次男の俊は狭いアパート暮らしから開放され、それぞれ自室を貰う。さらに則雄の祖父母とも同居することになり、神木家は大所帯となった。しかし数日経たぬうちに、昭雄が突然死してしまう。一家を取り巻く恐怖はここから始まった……。(yahooコミックより)

ホラーギャグ、ホラーアクション、おばけ4コマ、スプラッタホラーなど、ホラーを色々な形で描いてきた押切氏が意外にもまだ描いていなかった、ジャパニーズホラー作品。ジャパニーズホラーというとリングの「貞子」、呪怨の「俊雄君」や「伽耶子」など、おなじみのキャラクターが思い出されますが、作品のタイトルになっている「サユリ」もそういった流れを汲んだ何か、というキャラクターです。

主人公一家が、一見何の変哲もない一軒家に引っ越して…というところからその「サユリ」と対峙していくジャパニーズホラー的な悲劇が展開していきますが、そこは既存の作品のホラーキャラを入れ替えたなんてモノではなく、その流れには今までいろんな形でホラーを描いてきた押切氏の強烈な個性が存在します。ホラーのお約束を踏襲しながら、怖いシーンの出し方や魅せ方が独特で、悲劇に見舞われる人達の人となりも少ないページで、出てくる作品違うなら違った形で活躍出来たんだろうと思えるぐらいにきちんと描かれているから、ついつい引き込まれてしまうんですね。幽霊の怖い顔なども、今までギャグで描いてきた面白幽霊の顔と似ていたり、たくましく活躍する人間の描写が「夕闇特攻隊」(ホラーアクション)の迫力ある敵キャラのようであったり、本作品に使われる数々のパーツが今まで培ってきたものの延長線上にありながら、それがきちんと本格ホラーに噛み合うようカスタマイズされていて、それが唯一無二の個性を生んでいて、同時に漫画が上手いな~と思わされるわけでもあります。しっかり怖い漫画です。

そして、特に個性が出ているのがラスト。ジャパニーズホラーのラストは、かけられた呪いを解いたり、成すすべもなく全滅したり、何かの気まぐれで生き残ったり、それぞれが何らかの「理不尽」に対峙し、ホラー的な見せ場を迎えて各々の結末にたどり着きます。そのラストも本作品では、「恐怖の魅せ方」や「理不尽への対峙」方法など、押切氏としての全く新しい何かが展開して、数あるホラー作品の中にあっても新鮮で、しっくりくるものが見れたと断言できます(最後に一番怖い幽霊の顔を持ってきて驚かせるマンネリの打破というか、これを映画でやったら非常に面白そうです)。


巻数は全2巻で、若干詰め込みすぎ感もあるものの、1巻の終わりで、これが映画なら1時間20分くらいじゃないのかと思えるスピーディーで絶望的な状況が、2巻から意外な方向に開けていくジェットコースターのような展開は非常に刺激的です。ホラー好きで既存の押切作品が好きなら問答無用でオススメします。




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2011年07月18日 | コミック感想 | コメント 0件 | トラックバック 0件 | TOP

チュウチュウカナッコ|あらいあき

このエントリーをはてなブックマークに追加 カテゴリ:コミック感想  »2011年01月29日 更新

チュウチュウカナッコ 人生下手でもマイペース。ぼんやりカナコは今日も行く
チュウチュウカナッコ

お気に入り度:★★★★
オススメ度:★★

作者:あらいあき
出版社:青林工藝舎
発売日:2010/8/30
【⇒試し読み】

装丁:ゼンマイアタマ(荏本朋・あらいあき)


アナログ式ラジオに赤電話、室内アンテナの付いたブラウン管テレビ。雑多な商店街には今にはない活気が溢れる、そんな70年代終わりの頃。中華・福々軒で働くことを決めた貧乏一人暮らしの女性、カナエカナコ。コミュニケーション能力ほとんどゼロでどんくさいヘマも多々。出前のラーメンをこぼして他の店でラーメンを補給したり、お代を貰い忘れて自腹を切ったり、そんなときも考えているのは食べ物のことというとぼけたカナコの日常のお話。絵柄はちょっと水木しげるの入ったレトロで、癖があるが味があるタイプ。

リーゼントの店主・洋ちゃんや、70年代少女漫画風の容姿をしたからかうのが趣味のA子、悪魔的ルックスと性格を持ったバンドボーカルアザミなど、癖のある人達にからまれたり、気にかけられたりしながら、ぼんやりとマイペースを貫くカナコの生き方に漂う哀愁。大事件もいかにもなイイ話も、恋愛すらもないけれど、ほっこり暖かく、クスリと笑える。

興味深いのが、前半と後半のちょっとした変化。ひとみしりで協調性にかけるという『作者=カナコ』みたいなヒロインに自己を強く投影させた前半、そこから漫画が描けなくなって連載が中断された5年間を挟み、作者がヒロインと距離を取り始めた後半。「カナコ⇔人々」という構図から「カナコと人々」へと世界と物語が広がっていく。あとがきを交えながら5年で変わったこと、変わっていないことを意識して読んでいくと面白い。

5年間の中断を挟みながら、連載から10年近くの歳月を経ての単行本化。お話はまだ続くということなので、次をかなり気長に待つ。



【装丁】

時代を感じさせる商店街をちまっと歩く主人公のイラストに手描きのロゴが乗っかった、表紙には出版社名すら載せていないレトロな雰囲気のカバー。微かな凹凸が一味違う手触りを生むカバーの質感やイラストの構図など、ところどころが洗練されていて、不思議と古臭さは感じさせない(質感は『乙嫁語り』のものに近い)。

また、カバー下の別カバー風なイラストや目次など、総じてアナログな仕上がり。奥付では、作者が「描けなくなった(連載中断)時期」を指差していたりする。

チュウチュウカナッコ全

装丁でクレジットされている「ゼンマイアタマ」は、作者のあらい氏と荏本朋氏のサークル名。作者と、近しい間柄の関係者でデザインされていて、商業作品ながらアットホームな雰囲気が出ている感じの良い本になっている。


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2011年01月29日 | コミック感想 | コメント 0件 | トラックバック 0件 | TOP